大阪地方裁判所 平成10年(ワ)8288号 判決 2000年10月20日
原告
石川弘子
被告
下柿元俊男
主文
一 被告は、原告に対し、金一〇三一万六六三一円及びこれに対する平成六年一〇月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その二を被告の、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金二五九五万九五四八円及びこれに対する平成六年一〇月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実
1(本件事故)
(一) 日時 平成六年一〇月二二日午後一時二五分ころ
(二) 場所 大阪府門真市常称寺町二五番二〇号先の交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」という。)
(三) 加害車両 被告運転の普通貨物自動車(大阪四一ね三三二〇)
(四) 被害車両 原告(昭和一八年一月二九日生、当時五一歳)運転の足踏式自転車
(五) 態様 本件交差点において東から西へ向けて進行してきた加害車両が南から北へ向けて進行してきた被害車両に衝突し、被害車両を転倒させたもの
2(責任)
民法七〇九条、自動車損害賠償保障法三条
3(原告の傷害、治療経過)
(一) 傷害
頭蓋骨骨折、外傷性くも膜下出血、左右前頭葉挫傷、頭部挫創、意識障害
(二) 治療経過
(1) 守口敬任会病院
平成六年一〇月二二日から同年一二月一三日まで入院五三日間
平成六年一二月一四日から平成七年一二月二九日まで通院(実通院日数二六日)
(2) 関西医科大学病院
平成七年一月四日から同月二三日まで入院二〇日間
平成六年二月一四日から平成八年一月三一日まで通院(実通院日数三七日)
(三) 症状固定日 平成八年一月三一日
4(損害填補)(四八六万三五六〇円)
(一) 原告に対する支払 四二四万円
(1) 任意保険金 九三万円
(2) 自賠責保険金 三三一万円
(二) 守口敬任会病院治療費 六二万三五六〇円
二 争点
1 過失相殺
(一) 原告
(1) 被告は、本件交差点を直進するに当たり、交差点左右の見通しが困難であったから、徐行して左右道路の交通の安全を確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、右方道路の安全確認に注意を奪われ、左方道路の安全確認が不十分なまま時速約一五キロメートルで本件交差点に進入した過失がある。
(2) 原告の進行してきた道路は商店街になっているうえ、京阪電車大和田駅前からまっすぐ北上している道路であるため、本件交差点への歩行者や自転車の出入りが非常に多い道路であり、被告もこれを熟知していた。
(3) 過失相殺がなされるとしても二割が限度である。
(二) 被告
原告は、前方を確認せず、飛び出してきたものであり、四割の過失相殺をすべきである。
2 原告の後遺障害
(一) 原告
(1) 高次脳機能障害、ふらつき、頭重感、嗅覚脱失、左高度感音難聴、失禁
(2) 後遺障害等級 七級相当
(二) 被告
原告の後遺障害については、自動車保険料率算定会により頭部神経症状(一二級一二号)、嗅覚脱失(一二級相当)により併合一一級と認定されている。
3 原告の損害
(一) 治療費 七〇万九七九二円
(被告・ほかに被告は守口敬任会病院の治療費六二万三五六〇円を支払っている。)
(二) 入院雑費 一〇万二二〇〇円
1400円×73日
(三) 通院交通費 一一万三四〇〇円
1800円×63回
(四) 休業損害 三五一万二八六三円
パート及び家事労働
基礎収入 月二二万八八〇〇円(女子年齢別平均賃金五一歳)
休業期間 平成六年一〇月二二日(本件事故日)から平成八年一月三一日(症状固定日)までの四六七日間
22万8800円×12か月×(467日/365日)
(五) 入通院慰謝料 二二〇万円
(六) 逸失利益 一五八五万〇三二五円
労働能力喪失率 五六パーセント
就労可能年数 一四年(新ホフマン係数一〇・四〇九)
22万6600円×12か月×0.56×10.409
(七) 後遺障害慰謝料 九五〇万円
(八) その他 一〇万五〇四五円
(1) 文書料 三万二八二〇円
(2) 検査のための通院費等 五万七二二五円
(3) 被害車両 一万五〇〇〇円
(九) 弁護士費用 一三四万円
第三判断
一 争点1(過失相殺)
証拠(甲一〇、一一の1ないし7、乙一)によれば、次の事実が認められる。
1 本件事故現場の状況は、別紙交通事故現場見取図記載のとおりであり、東西方向の道路にほぼ南北に道路が交差する交通整理の行われていない交差点(本件交差点)であり、東西方向道路からも南北方向道路からも互いに見通しは不良である。
2 被告は加害車両を運転して東西方向道路を東から西に向かい本件交差点に至り、<1>地点で時速約三〇キロメートルから時速約一五キロメートルに減速して進行し、<2>地点で前方約四メートルの<ア>地点に進行してきた被害車両を発見し、制動措置を講じたが間に合わず、<3>地点で<イ>地点の被害車両と衝突(衝突地点は<×>)し、約一・八メートル前方の<4>地点で停止し、原告は、<エ>地点に転倒した。
3 原告が本件交差点に進入するに当たり、減速あるいは一時停止したことは認め難く、また、交差道路の動静に注意していたことを窺わせる事情も認め難い。
以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
右に認定の事実によれば、本件事故は、見通しの悪い交差点に進入するに当たり、交差道路の動静に十分注意することなく交差点に進入した原告、被告双方の過失により発生したものであり、前記認定事実を総合考慮すると、原告の損害額からその三割を過失相殺するのが相当である。
二 争点2(原告の後遺障害)
証拠(甲五、七ないし九、一三の1ないし3、二三、二六の1ないし4、二七の1、2、二八の1、2、三一、三二、五三の1、2、四六、四七、乙二、四の1、2、五ないし九、一二の1ないし3、証人奥山輝実、証人関山守洋)によれば、原告の後遺障害については、次のとおり認められる。
1 認定した後遺障害
(一) 頭部神経症状(一二級一二号)
(二) 嗅覚脱失(一二級相当)
(三) 左耳高度感音難聴(一一級六号)
以上を併合して、一〇級相当の後遺障害
2 原告は、昭和四三年ころ精神分裂病を発症し、藍野病院、淀の水病院、松下記念病院で治療を受けた後、昭和六一年八月二七日から有馬病院で治療を受け始めた。
有馬病院では入通院治療を受けていたが、昭和六二年一月二七日退院後、同年三月一二日からは榎坂病院での通院治療となり、本件事故時も通院治療を受けていた。
3 榎坂病院の担当医師関山守洋は、原告の本件事故前後の状態について、左耳の難聴のほかは特段の変化を認めていない(これは原告の本件事故による傷害が前記のとおり重篤なものであったことを認識した上での判断である。)。
4 原告には、右のほかに糖尿病の持病があり、治療を要する状態である。
以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
なお、証人石川展子の証言及び陳述書(甲五六、五九)中には、原告が本件事故後家庭内において、わずかなことで興奮したり怒りやすくなった、欲望を我慢できず子どものような行動をする、失禁するようになった等の証言あるいは記載が存するが、前記関山医師は右のような性格変化はないと判断していること及び当裁判所における本人尋問における態度(やや活性に欠けた点は認められたものの、その応答に特段不自然な点はなかった。)等からすると、そのままには採用できず、ほかに原告の主張する高次脳機能障害の症状については、これを精神分裂病の症状として十分説明できるものであり、本件事故によるものと認めるには至らない。
三 争点3(原告の損害)
1 治療費 一三三万三三五二円
(一) 七〇万九七九二円(甲三五の1ないし33、三六の1、2、三七の1ないし3、三八、三九の1ないし22、四〇の1、2、四一、四四の1ないし3)
(二) 六二万三五六〇円(争いがない既払の治療費)
2 入院雑費 九万四九〇〇円
入院雑費は一日当たり一三〇〇円とするのが相当である(入院期間合計七三日間)
3 通院交通費 一一万三四〇〇円
証拠(甲四八の1ないし8、弁論の全趣旨)により認められる。
4 休業損害 三〇八万二一七二円
証拠(甲一、四五の1ないし6、五六)によれば、原告は、本件事故当時、嘉能食品工業株式会社でパート店員として勤務し、月額平均七万五二四〇円の給与を得るとともに、夫と娘との三人暮らしで主婦として家事労働に従事していたことが認められる。
前記の原告の傷害、治療経過及び後遺障害の程度からすると、本件事故後六か月間は一〇〇パーセント、その後の九か月間は六〇パーセントの労働能力を喪失したものとし、基礎収入については平成六年賃金センサス女子労働者の全年齢平均賃金額年三二四万四四〇〇円(月額二七万〇三六六円)として休業損害を算定するのが相当である。
27万0366円×(6か月+0.6×9か月)=308万2172円
5 入通院慰謝料 二二〇万円
原告の傷害の部位、程度及び入通院状況からすると、原告の入通院慰謝料は二二〇万円と認めるのが相当である。
6 逸失利益 八六七万一四〇五円
原告の後遺障害の程度からすると、労働能力喪失率は二七パーセントと認められる。
就労可能年数 一四年(ライプニッツ係数九・八九九)
324万4400円×0.27×9.899=867万1405円
7 後遺障害慰謝料 四八〇万円
原告の後遺障害の内容、程度からすると、後遺障害慰謝料は四八〇万円と認めるのが相当である。
8 その他 一〇万五〇四五円
証拠(甲三七の1ないし3、四二の1、2、四三の1、2、五四の1ないし12、弁論の全趣旨)により認められる。
9 以上を合計すると、二〇四〇万〇二七四円となる。
四 過失相殺(三割)
右二〇四〇万〇二七四円からその三割を過失相殺すると、一四二八万〇一九一円となる。
五 損害填補(四八六万三五六〇円)
右一四二八万〇一九一円から既払金四八六万三五六〇円を控除すると、九四一万六六三一円となる。
六 弁護士費用 九〇万円
本件事故と相当因果関係の認められる弁護士費用は、九〇万円とするのが相当である。
七 よって、原告の請求は、一〇三一万六六三一円及びこれに対する本件事故の日である平成六年一〇月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(裁判官 吉波佳希)
交通事故現場見取図